薬屋のひとりごと 西都の蝗害対策|予兆・備蓄と猫猫たちが動いた理由

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この記事の結論

  • 警告と準備はあったが、土地・担い手・報告の差が対策を難しくした。
  • 急報、買い取り、穂刈り、屋内保存を組み合わせて麦を守った。
  • 群れが去った後も、壬氏の救援と現地の配給・診療が必要だった。

蝗害対策で特に印象に残った働きは?

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西都の蝗害対策は、猫猫が虫を退治する薬を作って終わる話ではない。早い段階から警告と準備はあったが、それが現場の行動へ十分につながらず、大群が迫ってから収穫・保存・避難を急ぐことになる。群れが去った後も、食料と薬を届ける仕事が残った。

作者公開Web版の、子翠が残した資料から西都での襲来、救援と慰問までをたどる。原作の西都編の展開に触れるため、アニメや漫画を途中まで読んでいる場合は注意してほしい。農薬の製法や薬の用量を紹介する記事ではなく、作中の判断と結果を整理する事件解説だ。

子翠の手掛かりは、発生後ではなく警告の段階で届いていた

「十六、積み重なる問題」で、壬氏は楼蘭が残した紙を確認する。そこには地図と、西方から流れる風を示す矢印があった。遠い場所から飛蝗が来て、その土地で繁殖し、小さな被害を放置すると翌年さらに大きくなるという見立てだ。

これは猫猫がすでに指摘したこととも一致していた。壬氏は被害の少なそうな地域への増税、雀の捕獲を一時的に禁じること、農民への駆除方法の伝達などを進めている。災害が起きるまで誰も何もしていなかった、という流れではない。

一方、情報があっても、それを調べて実行へ移す人が十分にいるとは限らない。「六、馬姉弟」では、壬氏が持ち帰った虫の死骸を調べる話が出る。大きな蝗害が久しく起きておらず、詳しい者がいないため、猫猫の力を借りる必要があった。

芋の準備と秋耕――対策があっても全域へ届かなかった

食料を失う事態への備えとして、羅半兄は西都へ甘藷の育て方を教えに来る。ただし、甘藷をどこへ植えても成功するという話ではない。北方では育ちが悪いという経験があり、別の選択肢として馬鈴薯も用意されていた。作物を増やす計画にも、土地の条件を合わせる必要がある。

現地では、鳥を捕らないようにする通達や、農地での駆除も行われていた。しかし農地と放牧地では、同じ対策がそのまま通じない。放牧地の草へ薬を使えば、家畜の餌への影響が心配される。担当する範囲や生活上の利害が違い、通達を出すだけで地域全体を守れるわけではなかった。

「十一、秋耕」「十二、耕作」では、羅半兄が土地の祭事の正体を秋耕だと見抜く。土を起こす作業には、土作りに加えて地中の害虫の卵を処理する意味があった。実際に土から卵の塊が現れ、鶏が食べ、残りを集めて処理する様子も描かれる。

大群になってから対抗するより、数が少ない段階で減らすという考え方である。ただし、この村では作業が念真へ偏っていた。他人の分の土地まで一人に任せていては、知識が正しくても実行が追い付かない。前年には時期が遅れ、虫を逃したという経験も語られる。

猫猫は、虫の報告が周辺から来ないことにも不審を抱く。しかし、その時点で隠蔽が確定したわけではない。後の慰問では、収穫の減り方だけで災害を判断すると、小さな被害が上へ報告されにくい事情も見えてくる。発生がないことと、報告が上がっていないことは分けて読む必要がある。

伝書鳩の急報が、収穫を前倒しする時間を作った

羅半兄は農村を回る際、壬氏が用意した訓練済みの鳩を持っていた。鳩は一方向へ情報を送り、追加の鳩は早馬で届ける。人が戻って口頭で知らせるより、現地の状況を早く伝えられる仕組みだった。

猫猫たちが農村を訪れていたとき、使者が届けた紙には、一本の線と、その上を黒く塗り潰したような絵が描かれていた。猫猫は、以前じゃずぐるから受け取った不気味な絵を思い出す。地平線を覆う黒い群れだと理解し、飛蝗の大群が来ると判断した。

紙には場所の記載すらなかった。猫猫は、羅半兄が混乱の中でようやく鳩を放ったのだろうと考える。

ただし、村人はすぐには信じなかった。目の前の麦が豊作で、晴天も続きそうだったからだ。念真は過去の大きな被害を知る立場から、手遅れになると警告する。猫猫の新しい情報だけでなく、村で重みを持つ経験者の声が必要になる。

陸孫の買い取りと穂先の収穫が、村人の行動を変えた

村を動かしたのは、陸孫が示した買い取りの条件だった。税として納める分を除いた麦を相場の二倍で買い、期限は三日以内とする。危険の説明だけでは動かなかった人々に、今すぐ刈る利益と締切を示したのである。

陸孫は、蝗害になれば相場は二倍どころでは済まなくなり、来なければ平和なままだと説明する。早く麦を確保することは、村人を助けるだけでなく、食料が足りなくなる可能性への備えにもなる。単に高い値段を約束して気を引いただけではない。

作業方法も普段どおりでは間に合わなかった。念真は穂先だけを刈ることを提案し、雀が村人へ働き掛けた。茎ごと刈るより体をかがめる手間が減り、屋内へ運ぶ量も小さくできる。藁は家畜の餌や日用品の材料になるが、その利益より先に、食べる部分を虫から守る判断をした。

猫猫は炊き出しを受け持ち、馬閃は重い袋を運ぶ。知恵を出す人が全作業を自分で行うのではなく、収穫・運搬・食事の準備を分担した。二日ほどで半分以上を刈り取れたのは、期限を決めた上で作業の仕方も変えたためだ。

通常なら外で乾かす麦も、今回はその時間を待てない。屋内で乾かし、保存する建物の隙間を粘土などで埋めた。収穫しただけでは安全にならず、群れが到着する前に、収納できる場所と入り込ませない準備が必要だった。

襲来中は、麦の保管・人の避難・火災を同時に扱う

群れが来たとき、収穫はまだ七割ほどだった。人々は麦を家や廟へ入れ、女性や子どもも屋内へ避難させる。廟には麦を詰め、隙間を土でふさぐ。一方、隙間の多い天幕は倉庫には向かず、外に残る人の一時避難先にした。

麦を積んだ暗い室内には火をつけないよう伝える。食料を守るための密閉が、人の不安を強めるという難しさも生じた。

陸孫は家ごとに声を掛け、隙間をふさいで回る。馬閃は網で虫を捕らえて水へ沈め、雀は飲み物を配り、混乱して暴れる者にも対処する。虫を殺す役だけでなく、人が落ち着いて避難を続けられるよう支える役が必要だった。

それでも、恐怖から火をつけた子どもがいた。麦のある家が燃え始め、馬閃は建物を壊して消火する。収穫した麦も、火に失われれば食料にはならない。虫を防ぐ準備と、密閉された場所で暮らす人の管理は、別の問題として同時に起きていた。

猫猫は薬を作ってまき続けるが、死ぬ虫以上に新しい群れが来る。手がただれるほど作業し、陸孫に止められた。効く薬を知っていても、来る量そのものを上回れるとは限らない。この場面は、薬師としての成功だけを積み重ねる展開ではない。

群れを収束させた天候と、守れた麦の数字を分ける

大きな転機になったのは、雹と急な冷え込みだった。飛蝗の動きが鈍くなるのを見た猫猫は、さらに降ってほしいと願って外へ出る。しかし、頭に雹を受けて気絶してしまう。群れの動きを変えたのは天候で、薬による全滅ではなかった。

一日後に目を覚ました時点でも、生き残った虫を処理する仕事は残っていた。大群の危機が去ることと、農地や家の中まで元に戻ることは別だ。李白が壬氏の指示で現地へ来て、馬閃は報告へ戻っている。応急の対応から、被害を調べて支える段階へ移ったことが分かる。

当該農村では、最終的に麦の約八割を収穫できた。残った麦は壊滅し、火事で失った分もある。それでも豊作などの条件に助けられ、麦の量は平年の約七割を確保したと説明される。この数字は一つの村の麦についてで、西都全域の食料を八割救えたという意味ではない。

被害は穀物の量だけにも収まらない。牧草や藁が失われれば家畜を養う仕事に影響し、芋の葉も食べられる。他の村はさらに厳しい状況だった。虫を食べれば全部を補えるという解決にはならず、すでに確保した食料をどこへどう配るかが次の問題になる。

備蓄と中央への早い救援要請が、襲来後を支えた

「三十八、火種」で、壬氏側がそれまで何をしていたかが明らかになる。壬氏は食料を持ち込み、鳩の知らせを受けた直後に中央へ救援を求めていた。被害を見てから最初の準備を始めたわけではないため、支援を早く届けられた。

ただし、食料が着けば自動的に住民へ渡るわけでもない。馬良らが村ごとの必要量を計算し、配給には現地側の人手も借りる。玉鶯側の兵が配ることで、準備した壬氏の働きが住民へ伝わりにくい不利も生じるが、まず届けるために協力する。

備えがあっても、食料の見通しは二、三か月ほどだった。次の収穫につながる作物や、薬の手配を続ける必要がある。食料の輸送を優先した結果、薬や代用品が尽きるという別の不足も起きる。中央で身近な薬草も、気候の違う西都ですぐ採れるとは限らなかった。

慰問の無料診療では、医官が診察し、猫猫が薬や処置を手伝い、馬閃が書類と配薬、雀が洗浄や食事、李白が秩序の維持を担当する。井戸に入った虫、水や燃料の不足といった生活環境の問題もあり、現地の知識を持つ楊医官の力が必要になる。

この段階では、誰が対策を用意したかを伝えることも支援の一部となる。住民が配給する兵だけを見れば、中央から何が届き、誰の指示で診療が行われているかは分からない。食べ物と薬の数量だけでなく、支援を受ける人へ正しく情報を届ける課題も残った。

初期の後宮で起きた事件から振り返りたい場合は、事件一覧で一件ごとのつながりを確認できる。

参考・出典

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